農業を始めるにあたって、就農地選びはめちゃくちゃ重要です。
「野菜ってとにかく土に植えたら育つんでしょ?」
ぐらいの知識なら、もっと勉強した方がいです。就農は時期尚早です。
たしかに野菜は土に植えたら育ちます。しかし、売り物になるかどうかはまったく別です。
就農地選びは、もちろん作ったら売らなければならないので、売り先が近くにあるかどうかも重要です。都市圏に近ければそれだけ需要のパイが大きいので、有利です。
しかし一番大切なのは、「まともに作物が作れる場所であるか」です。作物を作る難易度は、就農地ひとつで激しく異なります。植物の生育に関して正しい知識をもっていても、外的要因によっては収穫にいたる前に頓挫してしまうことがあるのです。それもたくさん。
その理由は阻害要因です。
農業の阻害要因① 鳥獣害
田舎の農家はシカが大ッキライ リンク
「せっかく野菜を作ったのに、シカに食べられて全滅した」
田舎にいるとこんな話は日常茶飯事です。
シカだけではありません。イノシシ、サル、イタチ、タヌキ、ハクビシン、アナグマ、ウサギ…山にいる草食・雑食性の動物はみんな農家の敵です。
いかに外見がチャーミングであろうと、農家にとっては大切な作物を食い荒らすにっくき害獣なのです。
奈良公園のシカがたまにテレビで放映されていますが、農家からすると悪党の集団です。カワイイよね?なんて言おうものなら「はァ?カワイイ?」と青筋立てて怒られることでしょう。
山がちな地域だと、必ず近くに害獣がいます。山に囲まれているということは害獣の群れに囲まれているというのと同義です。そのため田舎では農業と鳥獣害は切っても切れない関係にあります。
鳥獣害を防ぐためには、電気柵などの防護を周囲に張り巡らさなければなりませんが、この費用と手間が馬鹿になりません。同じ農業をやるのでも、鳥獣害対策が必要なところはそうでないところに比べてコストが膨らんでしまうため、不利です。
農業集落を見かけることがあったら、柵をどこに張っているか観察してみてください。
集落の周囲にぐるっと柵を張り巡らせているようであれば、集落ぐるみで鳥獣害対策をやっているところです。みんなで守るという意識がすでに共有されているので、比較的恵まれている環境と言えます。
(なお、ぐるっと囲っているからといって、動物の侵入が完全に遮断できるわけではありません。たとえば県道や市道といった公道は、遮断するわけにはいかないので、開放しておかざるを得ません。入る余地を完全になくすことは困難です)
しかし多くの田舎では、田んぼごと、畑ごとに柵を張っています。そういうところでは鳥獣害対策は個人の責任とされています。みんな自分の畑の周りだけ囲んで、あとは知らん顔。そのため対策はすべて自分でやらなくてはいけません。集落をぐるっと囲った方が総コストは圧倒的に安いんですけどね。
柵が見あたらない場合は、それほど鳥獣害が激しくないところかもしれません。その多くは拓けた平地です。動物は見通しの悪いところを好むので(自分の姿が敵に見つかりにくいため)、遠くまで見晴らせるようなところにはあまり足を踏み入れたがりません。
他が同じ条件なら、就農地は以下の順番で選びましょう。
柵のない平地 〉 集落ぐるみで対策をしているところ 〉 山が近くひとつひとつの畑に柵をしているところ
農業の阻害要因② 洪水
川が氾濫して、農地が水に浸かってしまうとおおごとです。
農地がまるごと水に浸かってしまっても耐えられる作物は稲ぐらいで、野菜は軒並み全滅してしまいます。
作物だけならまだしも、農業機械までやられてしまうと、最悪そのまま廃業になりかねません(しかも借金背負って。農業機械は高い!)。
洪水の起こりやすい季節は夏、原因は台風などによって引き起こされる豪雨です。そのため台風がよく通る地域は要注意です。川が氾濫しやすいところだと、堤防などがきちんと整備されていなかったりして、多いと数年に一度の割合で洪水被害を引き起こします。
なんだ数年に一度か、と思った人はサラリーマンに置き換えてみてください。「数年に一度、給料0円の年があります。ちなみに経費はすべて自腹です」と言われたらどうですか? 「やってられるか!」ってなりませんか?
悪いことに、洪水は鳥獣害と違って個人では対策のしようがありません。そのため場所選びは死活問題です。これに関しては地元の農家に聞くのが一番手っ取り早いです。「よく浸かる」という返事が返ってくるようなら、その土地では就農しない方が賢明です。
そういえば、冬に川が氾濫したというのは聞いたことがありませんから、氾濫しやすい地域でも、夏は避けて冬野菜に特化するという戦略はアリかもしれませんね。
農業の阻害要因③ 土質
上2つは地域レベルの話ですが、これは畑1枚レベルの話です。
まず、田んぼと畑の違いってわかりますか? 超ザックリ言うとこんな感じです。
・田んぼ 水を張ってお米を育てるもの
・畑 水を張らずにお米以外を育てるもの
で、水がないところにお米を植えても育たないのと同様に、田んぼに野菜を植えてもうまく育ちません(サトイモなど例外はありますが)。
「いくらコメを作っていたところだって、同じ土でしょ? 水をたくさん入れなきゃいいんでしょ?」
いえ、田んぼと畑は同じ土ではないんです。
大きな違いは水はけです。雨が降ったときの違いは歴然で、田んぼはすぐ水分を吸い込んでグチャグチャになりますが、畑は比較的すぐに水が引いていきます。
田んぼは水を張ることを前提に作られているので、水が抜けにくい構造になっています。
田んぼを畑に向いた農地に転換するには時間と手間とお金がかかります。
まず床土(とこつち)に穴を空けます。床土とは水が抜けていかないように固めた土層で、表面から数十センチ下にあります。この穴を開ける行為のことを「床(とこ)を割る」といいます。
そのあと、土壌改良資材などを入れて土質を変えていきます。
きちんと作物を育てられる畑に転換するには早くても2?3年はかかるでしょう。
また農地を借りている場合は持ち主に了解をとることも忘れてはいけません。「この田んぼは畑にしないでほしい」という意向を持っている方もいるからです。床を割ってしまうとなかなかもとに戻せないので、嫌がる人は多いです。
ということで、野菜を作るなら、畑に向いている土質かどうかで初期投資が変わってきます。
まとめ
就農地選びで大切なのは
①鳥獣害
②洪水
③土質
でした。
どれも近隣の農家に話を聞けばすぐにわかります。くれぐれも就農前のリサーチを怠らないようにしてください。
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