農地は相続などの場合は簡単に手に入りますが、そうでない、その土地に縁もゆかりもない人が農地を手に入れるにはそれなりに手続きが必要です。
今回は、農地を手に入れるための方法とその手続きを紹介します。
なお、今回ご紹介するのは農地をそのまま農地として使うための方法です。
農地だったところに家を建てたい場合などはまた条件が変わってくるので、ご注意ください。
農地を手に入れるには主に「買う」方法と「借りる」方法の2つがあります。
農地を買う
最初に、農地は買うとけっこう高いです。
1枚あたり数十万します。
最初からそんな出費はちょっと…という方は、ここを飛ばして「農地を借りる」から読んでください。
買う方法は1つで、農地法3条による売買の書類を町の農業委員会に提出して許可をもらいます。
農地法3条
許可条件は主に以下の4つです。
①農業経営に供すべき農地の全てを耕作すると認められること
わかりやすく言うと
「自分で管理する土地は草ボーボーにしちゃダメよ。ちゃんと全部の農地で作物を作ってね」
という意味です。
②農業経営に必要な農作業に常時従事すると認められること
「常時」には具体的な指標があって、年間150日以上です。
では150日間、毎日1分だけ農業すればOKなのかというとこれまた違って、1日は8時間換算です。
なので年間で150日×8時間=1,200時間農作業をすると認められることです。
農業委員会に申請書を提出したときに「これだけの面積でこれだけの量の作物を作るなら1,200時間以上かかるのは妥当だよね」という感じで判断されます。
③取得する農地の経営面積が50a(アール)以上あること
50a=5,000㎡です。
坪数でいうと1,500坪。
正方形にすると一辺が約70m。けっこう大きいです。
家庭菜園なら5m×5m(25㎡)でも十分ですよね。その20倍です。
これだけの面積を、①の条件ですべて耕作しないといけないので、けっこう大変です。
なお、50aは北海道以外の話です。北海道では2haが下限になります。50aの4倍です。
④周囲の農地に影響を与えないこと
「特殊な農法をしたり、放置して草ボーボーにして害虫を発生させたりして、周囲に迷惑がかからないようにしてくださいね」という意味です。
草を刈らない農法は実際にありますが、それをやると周りが迷惑するんですよね。
これらを踏まえた上で、農業委員会に農地法3条申請書を提出しなければなりません。
フォーマットは市役所の農業委員会で手に入ります。
ついでに書き方も教えてもらってください。
主に以下のような項目があるはずです。
・作物の種類・面積・収穫量・収益はどれくらいか
・農業機械は何を買う予定なのか
・(家族も含め)年間何時間ぐらい働くのか
よく「農地は農家でないと買えない」と言われますが、農家は弁護士や医師のように資格のいる職業ではありません。
なので正確には、
「農業をちゃんとやる人だと農業委員会に認めてもらえないと買えない」
といったところでしょうか。
農家であるということは、農業をしている実績があるということで、なんでもそうですが実績があると信用度が増します。そのため申請も通りやすくなるわけです。
なお「手続きがめんどくさい!お金で解決したい!」という方は行政書士さんにお願いしましょう。
農地を借りる
最近はこちらから始めるのが主流です。
理由は初期費用が安く済むから。
中にはタダで貸してくれる人もいます。
田舎に行くと、もう農業は引退したけど、農地を持っているという人がけっこういます。
その人の苦労は、定期的に草刈りをしないといけないこと。
草ボーボーにしてしまうと、そこが害虫の発生源になって近所迷惑になるので、草刈りは半ば義務と化しています。
これが年をとってくると年々辛くなってくるんです。
そんな人の悩みはこうです。
「誰か代わりに草刈ってくれないかなあ…。でも人に頼むとお金かかるしなあ…」
そこで若い人が農業をしたいと言ってくれれば、
「おお! これで草刈りしなくて済む!」
ということで、タダでも借りてくれた方が自分がラクなわけです。
そんな農地の借り方をご紹介します。
なお、手続きをしないで農地を借りるのは俗に「ヤミ小作」といって、やってはいけません。
バレると農業委員会に怒られるので、農業を生業にしたい人はきちんと手続きをしてくださいね。
農地法3条
「あれ? 買うところでもこの法律出なかった?」
そのとおり。農地法3条は、買うだけでなく、借りるときにも使えます。
手続きは買うときと似ているので、説明は省略します。
利用権設定
こちらは農地法によるものではなく、農業経営基盤強化促進法という法律によるものです(覚えなくていいです)。
農地の「利用権」を、持ち主から耕作希望者に移すもので、実質「借りる」のと同じです。
手続きも農地法と同じく、市役所の農業委員会で行います。
「じゃあ農地法と何が違うの?」
一言でいうと、利用権設定の方が、持ち主が安心して貸すことができます。
農地法は期限を定めないで借りることができるのに対し、利用権設定は期限が必ず存在し、期間がきたら権利が持ち主に戻ります。
続けて借りたい場合は、期限が迫ってきたタイミングで再度同じ手続きをして借りなおす必要があります。
特にお年寄りに多いんですが「貸したら返ってこないんじゃないか」という不安を持っています。
農地法で期限を定めないで借りて、永遠に返さない。
昔はそういうことがあったみたいですね。
農地中間管理機構
こちらは農地法でも農業経営基盤強化促進法でもなく「農地中間管理事業の推進に関する法律」によるものです(これも覚えなくていいです)。
簡単に言うと、農地を借りたい人と貸したい人のマッチングサービスです。
都道府県ごとに「〇〇県農業公社」のような組織があり、そこで貸したい人は農地を登録し、借りたい人は希望農地を申告します。
あとはこの公社がワンストップで手続きをしてくれます。
農地情報を見たい人は「農地中間管理機構 公社 〇〇県」でググってください。
ただし注意点として、最初の段階で農地の具体的な場所は教えてくれません。
例:長野県農業開発公社(リンクをクリックして「公募の区域を見る」に進んでください)
ある程度話が進んで初めて、現地を見に行きましょうかとなるので、最初から自分の目で農地を確かめたい人にとっては不向きです。
まとめ
農業はハードな体力仕事なので、続けられるかどうかはわかりません。
そのため、最初に少なくない初期投資と面倒な事務手続きをして農地を買うのはオススメしません。
借りることを念頭に置いて、中でも利用権設定をして、小さく始めていくことをオススメします。
農家の中には、所有面積は0だけど借りている面積は何ヘクタールもある、という方もいます。
さあ農業をやってみよう!
コメント