正しさだけでは田舎の人は動かない。町おこしをしたいならまず信頼を獲得しよう

この記事は、俺が地方を変えてやるんだという心意気で田舎に飛び込もうとしている人に向けて書きました。

地方で物事を動かすには熱意とビジネスモデル以外にも大事なものがありますよ、というお話です。

町おこしの入口で挫折したある移住者の話

(実話ですが特定を避けるため内容を少し変更しています)

鈴木さん(仮名)は東京育ちの東京住まい。30代の男性です。

彼はときどき旅行で訪れる、ある町が大好きでした。自然の美しさ、歴史ある建物の風情、人々の素朴さ、優しさ。いつまでもこの町がこのまま続いてほしいと願っていました。

でも訪れるうちに街に元気がないように思えてきて、このままではいけない、と思うようになりました。もともと地方の町おこしに興味があった鈴木さん、もったいない、もっとこうしたらいいのに、もっと街の魅力を伸ばせるのにという点がいくつも見つかります。そんなことを考えているうちに、いっそ自分がやったほうが早いんじゃないか、大好きなこの街を自分が元気にしてやるんだ、と思うようになりました。そして彼はなんと今の仕事をやめ、その町に移住したのです。

次の仕事さえ決まっていませんでしたが、彼には自信がありました。東京では小さな喫茶店の雇われ店長をしていた経験があり、1年で売上を倍にした実績もありました。商売の勘所を心得ていて、人の扱いにも自信がある。都会の難しい人たちを相手に結果を出してきたので、田舎の純朴な人たちを相手にするのはそれより易しいと考えていました。

移住した鈴木さんはさっそく行動を開始しました。市役所をはじめとして観光協会、商工会などを回り、街の抱える問題点とその解決策を何度も説明しました。

せっかくのすばらしい資源がたくさんあるのに、町はそれを活かせていない。どんな形でもいいから協力させてもらえないか。実行するにしても、どこも忙しいだろうから、なんなら最初はタダ働きでも使ってくれて構わない。

彼の語る街の抱える問題点や、町おこしの方向性には、どこの団体も否定はしませんでした。その上、タダで雇える労力まで差し出しているのだから、町にとってはメリットしかないはずです。明日にもどこかから声がかかるはずと信じて、鈴木さんはあちこちへの説得を続けました。

しかし、どこもさっぱりその後のリアクションがありません。それどころか訪問を重ねるにつれて、担当者が留守がちになります。他の人に聞いてもお茶を濁すような返事ばかり。もしかして避けられているのでは、と思うようになりました(事実そうでした)。

自分の考えが間違っているとは思えません。鈴木さんには、明らかな問題点を放置して、指摘してもまったく動こうとしない諸団体はよほどやる気がない人たちの集まりなんだと思うようになりました。町は好きだけど、そこで働く人たちのことは嫌いになりかけていました。

そんな中、一軒だけ話を聞いてくれた人がいました。地元ではよく知られた旅館の若社長です。町おこしに懸ける熱い思いが社長の耳に入り、一対一で話を聞いてくれたのです。鈴木さんの思いや考えに全面的に賛同してくれ、彼を雇ってその考えを活かす方向でいきたいと申し出てくれたのです。
わかってくれる人がいたんだ。鈴木さんは嬉しくなりました。また連絡するからという社長の声を受け、彼は待ちました。

待ちました。

そして半月後、ようやく電話がかかってきました。

社長の話は、先日の話とはまるで違っていました。要約すると「あのときはああ言ったが、色々都合があって雇えなくなった。申し訳ない」というものでした。話が違う、と思いましたが、鈴木さんは「雇う雇わないは都合があるので仕方がないでしょう。ですがやりたいのは町おこしです。会社の中でなくてもいいから、何か関わらせてもらえませんか」と食い下がりました。しかしあっけなく電話は切られました。

せっかく理解してくれる人が現れたと思ったのに、こんなことで納得できるわけもありません。鈴木さんはその旅館に電話をしました。すると事務方に繋がり、「社長は忙しいので私がお話を承ります」とのこと。社長と話をしたいといっても取り次いでもらえません。その後も繰り返し何度も、せめて一度話をさせてほしい、アポをいれてほしいとお願いしましたが、結局社長と話をすることはできませんでした。

度重なる徒労感に、町に裏切られたと感じた彼は、引っ越してきた三ヶ月後、その町を出ていってしまいました。大好きだった町のことを、今は好きになれません。それどころか、あんなにやる気のない町なんか、もう頼まれたって協力してやるもんかという思いでいます。

…いかがだったでしょうか。

なぜ町は鈴木さんを相手にしなかったのか?
やる気がなかったから?
それとも何か理由が?

それを知るために、次は町の内部の視点からこのことを振り返ってみます。

町の内部から見た移住者の話

鈴木さんに最初に応対したのは、市役所の職員でした。

聞けばこの街が好きで引っ越してきて、なんでもいいからまちづくりに関わりたい、業種は問わないと言います。なんなら最初はタダ働きしても構わないとも。

この職員の胸に最初に浮かんだのは、警戒心でした。話す内容はごもっともで、町を好きだといってくれるのは嬉しいけれど、その提案が鈴木さんにとってどんなメリットになるのかが見えなかったからです。一見自分の得にならない提案をして、またそれが通ったとして、今後どうやって生活するつもりなのか? 聞けばこの街での仕事はまだ見つけていないとのこと。ますます怪しい、と彼は思いました。

こんなアイデアがあるから実現させるためにお金がほしい、というのならまだわかります。良いサービスがあるから導入しませんか、というセールストークと同じで相手のメリットがはっきり見えるからです。

やりたいことがあるのなら自分で会社でもなんでも立ち上げてやればいいのに、どうして市役所に売り込もうとするのか?

より警戒心を強めたのはタダ働きという提案でした。何かウラがあるのではないか? タダ働きをさせておいて、あとで何か悪い方法で金をふんだくろうという気ではないか?

話を聞くだけ聞いて、彼はその後上司に「要警戒」と報告しました。

商工会の職員も、市役所と同じような感想を持ちました。

「ホントにやる気があるなら自分で商売を始めたらいいのでは? 空き店舗も空き家もたくさんあるし、やろうと思えばすぐにでも始められますよ」

そう話すと、鈴木さんは「自分でやって他の店と競合したら恨まれるでしょう」と返します。

商工会職員は「競合しない業態を考えたらいいだけなのでは? 地域の魅力を磨く仕事ならむしろ喜ばれるのに」と思いましたが口には出しませんでした。

次に「まずはアルバイトでもいいから地道に働いて、町の人たちに顔を売ってからでもいいのでは?」と言いましたが、それに対する鈴木さんの答えはこうでした。

「ただの下働きはしたくないんです。僕が下働きして、町の人に顔を覚えてもらうには一年ぐらいはかかるでしょう。その間に街の状況はもっと悪くなってしまいます。すると建て直しに今よりもっと時間がかかる。それではまずいんです」

商工会職員は何も言いませんでした。

観光協会の職員も同じでした。

鈴木さんは、以前に店を任されて、その売上を一年で倍にしたことなどを実績として挙げていましたが、その実績は確かめようがありません。

どこの誰ともわからない人を信じて、それが何らかの詐欺だった場合、自分の組織だけではなく関係機関にも迷惑がかかります。まして観光協会はただでさえしがらみが多く、様々な団体とうまく折り合っていかなければならないところです。いくらその主張が正しいように思えても、素性のわからない人の言うことをすぐに信じるわけにはいかないのです。

ホテルの社長も同じでした。

ホテルは人が来てくれて成り立つ商売です。町が廃れるときは自分の商売も沈むときだという意識はありました。そのためもとよりまちづくりや町おこしには人一倍関心があります。

鈴木さんの提案を聞いたときは、こんなやる気あふれる奴がこの町にいたなんて、と嬉しくなり、ついついその場で調子のいい約束をしてしまいました。

しかし後になってよく考えてみると、大丈夫なんだろうか、という不安が湧いてきました。小さい町なので、鈴木さんが他の団体にもアプローチしているという情報も回ってきます。聞けば仕事はまだない、タダ働きでもいいからやりたいと言っているとのこと。ではどうやって食っていくつもりなのか?  本当に町おこしが目的なのか? 鈴木さんの腹づもりが見えませんでした。

町でよく知られている存在とはいえ、社員はパート含め40名足らず。一人の従業員の影響力は大きいのです。鈴木さんを見ていて、ものを考える力はありそうだが、つまらない仕事があっても周りと協調して働いてくれるか、というところに懸念がありました。周りのペースを考えず自己主張ばかりする人が入社したら…。彼を雇うのはリスキーだと感じました。

熟慮の末、彼は鈴木さんに断りの電話を入れました。

…いかがだったでしょうか。

鈴木さんから見るのと、町の内部から見るのとでは、同じ出来事でも印象がまるで違ってきます。

鈴木さんの熱意は素晴らしく、またやろうとしていることは町にとってもメリットのあることです。しかし、素性のわからない人の主張は、いくら正しく思えても、何か裏があるのではないかと勘繰ってしまうのがふつうです。

鈴木さんに欠けていたのはたった一つ、『信頼を得る』というプロセスを怠ったことです。

うまくいかなかった原因は「信頼のなさ」

田舎では何をするにあたっても、「信頼」が最も大事な要素になります。

× 発言の重み=発言の内容

○ 発言の重み=発言の内容+発言した人の信頼度

です。発言の内容が100点でも、信頼度が0点だと採用されません。逆に発言の内容が30点でも、信頼度が高ければ通ってしまうことがあります。

このことを知らないまま田舎で何かやろうとして失敗して「あいつらはロジックが通用しないバカだ」なんていう捨て台詞を吐いて町を出ていく人がときどきいるのですが、そういう人こそ田舎のロジックを知ろうとしていないのです。

では鈴木さんはどうすればよかったのでしょうか。

まずは商工会職員の言うとおり、地道に働いて「こいつはきちんと仕事をする奴だ」という評判を得るべきでした。最初からロケットスタートなんて考えは要りません。初年度から売上を倍にしようなんて考える前に、とにかくマジメに働いているという印象を周りに植え付けるのが最優先です。その上で売上を倍にできればなおいいですが。

田舎では「〇〇さんの知り合い」とか「〇〇さんのところで働いている」というと、それだけで心のハードルがぐっと下がります。さらにマジメに仕事をしていると、「〇〇さんのところの人で、きちんと仕事をする人らしい」という評判がつきます。ここからが真のスタートです。

最初は、

発言の内容(50点)+発言した人の信頼度(0点)=発言の重み(50点)

ですが、後になると、

発言の内容(50点)+発言した人の信頼度(30点)=発言の重み(80点)

となります。
発言の内容は同じでも、信頼度が増しているため、前向きな姿勢で聞いてもらえることが多くなります。

田舎で何かをやりたいと思っている人は、田舎のロジックをないがしろにしてはいけません。

まとめ

地方で何か大きなことをやってやろうと思ったときに、最も大事なのは「信頼」です。だからまずは地方に溶け込むことに専念してください。遠回りに見えても結局は近道です。

ただしその間にも食べていく必要があります。信頼を得て、周りの協力が得られるようになるタイミングまでなんとかしのいでください。

都会でやっていた仕事をそのまま持っていける人は問題ありませんが、持っていけない場合は、前職で得たスキルを活かせる仕事に転職することをオススメします。

関連記事:移住して就職・転職! 田舎暮らしをしたい人のための転職サイトまとめ

田舎だからと反射的に農業に手を出すのはあまりオススメしません。やるなら家庭菜園くらいのライトなところで留めておいたほうが他にも色々楽しめます。ズブの素人が農業を仕事にしようと思ったら数年間全身全霊ぶっ込まないと食えるようにはなりません。

関連記事:地方移住したって別に農業しなくてもいいんだよ

それならスキルを活かせる職場に転職した方が諸々ショートカットできます。新しい仕事を覚えるのに苦労するのなら、その時間を来たるべきときに備えて職場内外での人脈構築に使った方が有益です。

人生の時間は限られています。目的は何か? それを達成するためにはどうしたらいいのか? 同じ回り道でも有益な回り道ならぜひすべきでしょう。しかし無駄な回り道は避けるべきです。

沈みつつある田舎を救えるのは、やる気のあるよそ者・若者・バカ者です。熱意のある人を、田舎は待っています。

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