この記事は、地方に飛び込んでいこうと思っている人たちを応援するために書きました。
どんな人でも「地方移住して食っていけるのかな?」というのが最初の悩みだと思います。
どれだけやりたいことがあっても、自分の食い扶持があるのはすべての前提条件です。
田舎で活躍できるスキルとは?
さて、お悩みの人たちにいきなり答えを言います。田舎で活躍できるスキルは「生産する仕事以外全部」です。
何それ?と思った方、ていねいに解説していきますから安心してください。
田舎で行われている仕事は、会社で例えると「工場しかない会社」です。
モノは作れます。それぞれにこだわりがあってクオリティも高い。でも、工場しかなかったら経営が成り立ちませんよね。営業、経理、人事、そしてそれらをすべて統括する経営が必要です。しかし、田舎ではそれらの考え方がない人たちが往々にしています。
田舎の人は生産以外の部門を軽視しています。正確には軽視しているというより勉強していないから知らないのです。特にお年寄り。「いいものは黙っておいても売れる」という昔の日本の製造業のような考えです。
たとえば農家。おいしいコメを作る人たちはたくさんいるのに、みな稼げずに廃業していきます。そういう人たちの発想は「俺らの作ったコメは美味いんだ!なのにこんな値段でしか売れないのはおかしい!」という発想です。本当に味に自信があるなら高値で取り扱ってくれる百貨店や高級ホテルに営業すればいいのにやっていない。自分の方を向いてくれるように上手にブランディングすればいいのにやっていない。売りたい価格で売れないのなら、市場価格で売っても利益が出る体制を整えなければならないのにやっていない。
そういう人たちに共通するのは「自分は悪くない」という考えです。自分は悪くない、環境が悪いというわけです。自分の努力次第で劇的に伸びる余地があるのに気づいていない。いいモノを作っているだけになおさらもったいないのです。
生産する人はいるのです。けど稼げないからやめていって、田舎は仕事がないなどと言われるのです。だからまずは、いいモノを作っている人たちが稼げるようにすることが大事です。そのためには、「生産する仕事以外全部」が必要になるのです。
田舎で活躍できる仕事5選
デザイナー
田舎ではデザインを専門に担当する人が。印刷屋さんや看板屋さんがそのままデザインも手がけています。印刷屋さんや看板屋さんは、もらった条件で仕事をしますが、こんなデザインにしたらもっと売れる、伝わりやすい、だからこうしてみませんか?と提案してくれることはまずありません。売れるデザインを提案できる人は、ものすごく貴重ですし必要な人材です。
経理
田舎の人は基本的にどんぶり勘定です。利益率はどれくらいか、他者と比較してどこに経営の弱点があるかなど、あまり考えません。数字を明確にあぶりだす経理は、田舎の零細企業(特に個人商店)の経営を伸ばしていく上で必要です。
マーケティング・ブランディング
私見ですが、田舎に最も足りていないスキルだと思います。
田舎の人の考え方は、日本の昔の製造業のような「作ったら売れる」の発想です。
顧客にどんな訴求をすればもっと売れるか、といった視点は基本的にありません。地域性に根差した独自性のある資源がゴロゴロ転がっているのに、それをお金に換えることができず衰退している理由は、とにかく売り方を知らないことに尽きます。はっきりいってめちゃくちゃもったいないです。
企画・プロデュース
多くの会社はジリ貧に陥っています。田舎はどこも人口がどんどん減っていて、それに伴って売り上げもジワジワ減っています。何かしなければ将来ピンチになるのは目に見えている。でもどうしたらいいか思いつかない。そんな中で、こういう「次の一手」を打てる人は貴重です。
また、あとで例に出しますが、他のスキルと組み合わさっているとなお良いです。
老人保健施設運営
これまで紹介してきた仕事とは毛色が違いますが、これも立派に必要とされている仕事です。
田舎では待機児童問題はありませんが、逆に待機老人問題があります。高齢になってきたから老人施設に入りたいけど、どこも満室だというわけですね。私の周りでも施設に入りたくて順番待ちをしているという話をよく聞きます。また一度出所したらすぐ枠が埋まってしまって再入所できないので、みんな出たがりません。需要に対して供給が足りていない例です。
「田舎は人口が減っているからそのうちパイも少なくなるのでは?」
ご心配なく。たしかに人口は減っていますが、流出しているのは主に若年層で、高齢者層はどこも横ばいか微減程度なんですね。この傾向は今後10~20年は続きます。
パイの大きさが気になるのならRESASで調べてみてください。RESASは総務省が提供する、地域ごとの色々な数字がグラフで見られるHPです。
RESAS 和歌山県和歌山市の将来人口推計
「年齢3区分別人口推移」というところを見てください。老年人口はだいたい横ばいです。ためしに画面右上の都市名を変更して色々見てみてください。どこも似た傾向がみられます。
プロデュースに失敗した、あるお肉屋さんの例
(実話ですが特定を避けるために内容を少し変更しています)
都会から来た人がスキルを持っていても、うまくいかないこともあります。それはなぜか?というお話です。
佐藤さん(仮名)は、夫婦共働きでお肉屋「佐藤精肉店」を営む50代男性。地元ではおいしいと評判のお肉屋さんです。
肉の味に対する彼のこだわりは人一倍で、実際にそのへんの高級肉と比べても引けは取りません。旨さの秘訣は研究に研究を重ねた独自のエサです。レシピは門外不出。小さいながら自社牧場を持ち、子牛からずっとその秘伝のエサで育てています。彼には、高級肉にまさる牛肉を独学で生産しているという強い自負がありました。
そんなある日、この町に移住してきて間もない高橋さん(仮名)から、インターネットでこの肉を売り出したいとの提案をもらいました。こんなにおいしい佐藤さんのお肉をぜひたくさんの人に広めたいというのです。
佐藤さんの金銭的負担はなし、高橋さんが無料でネットショップを構築し、料金から手数料をいただくというやり方です。
佐藤さんは、高橋さんのことをよく知りませんでした。最近東京から引っ越してきた人、という程度の認識でしたが、話自体は悪くありません。稼げてお金の負担もないのなら、ととりあえず続きを聞いてみることにしました。
やるにあたって、高橋さんは2つだけ条件を出しました。
・メールを一日一回チェックすること
・パッケージを変えること
これに佐藤さんの顔が曇ります。
「どうしてそんなことをする必要があるんだ」
佐藤さんはメールを使ったことがありませんでした。携帯電話は電話機能しか使わず、注文はずっと電話かFAXで受けていました。また、彼はお肉を送るときは、見た目のそっけない白の厚手の紙箱に入れて送っていました。
高橋さんはこう説明しました。
「インターネットの注文はメールで来るから、メールを使えるのは大事なんです。最低限受信だけできればなんとかなるのでお願いします。あと箱ですが、地元の人なら佐藤さんの肉はおいしいって知ってるけど、東京の人は知らないでしょ? だからひと目でおいしそうなことが伝わるように、見た目は大事なんです。箱もうまそうに見えるような箱にしないといけないんです」
佐藤さんは反発を覚えます。
「俺はメールなんかわかんないよ。しかもそれだけのために箱を買えって? 箱もタダじゃないんだ。それも負担しろって言うのか?」
高橋さんはこう答えました。
「メールがわからないならこれから教えます。箱代が高いならそのぶん値段を上げればいいんですよ。ここらへんの金銭感覚と違うんだから、高くても良いものなら売れます」
佐藤さんはだんだんイライラしてきました。
「ごちゃごちゃうるさいな。俺はずっとこのやり方でやってきたんだ。そっちからお願いしてきたくせに、いちいち注文をつけてきてうっとうしいよ」
高橋さんは説得を続けます。
「でも、これからお客さんは減ってきますよ。常連さんはお年寄りが多いですよね。佐藤精肉店の新しいファンを増やしていかないと続かないんじゃないですか?」
佐藤さんは怒りました。
「なんだ俺のやり方に文句があるのか? 文句があるんならそんな奴はいらないよ」
高橋さんは口をつぐみました。怒ったのではなく、この人とビジネスをするべきではないと思ったからです。売れるようになる方法をアドバイスしているのに、文句をつけていると受け取られている。この調子だと、新しいことが発生するたびに対応を嫌がるのではないか。クレーマーは都会のほうが多いのです。より丁寧な対応が求められます。なにかトラブルが起こったとき、この相手をビジネスパートナーにして事態を打開していけそうか…答えはノーでした。
…結局、佐藤さんは新しいビジネスチャンスを逃してしまいました。
すべてに必要なコミュニケーション能力
さて、このやりとりは何が悪かったのでしょう?
高橋さんにはECサイトの構築スキルに加えて、プロデュース能力もありました。ネットショップの企画に合わせて、そこで売れるための方策も同時に提案していたのです。彼は先ほど私が書いたスキルの2つを合わせ持っていました。なのに佐藤精肉店を売り出すことはできなかった。
実は、高橋さんには唯一欠けていたものがありました。どのスキルを発揮するにも共通して必要な前提条件があります。それはコミュニケーション能力です。
高橋さんは一見丁寧に説明しているように見えますが、実は相手の気持ちに寄り添った提案になっていなかったのです。
自社の課題を明確に意識している人たちも中にはいますが、大部分はどこが悪いのか、どこを伸ばせるのかがわかっていない状態です。下手すると売り上げが明確に下がっているのに「問題は何もない」と思っている人さえいます。そんな人たちにいきなり「あなたにはここが足りない」などと指摘しても、先ほどの佐藤さんのように「ほっといてくれ」となるだけです。相手の気持ちに寄り添って、解決すべき課題をていねいに提示して、それに相手が納得してからが真のスタートです。相手を腹落ちさせる工程はサボってはいけません。
佐藤精肉店の例でいうと、佐藤さんは自分に問題があるとは考えていませんでした。売上は毎年微減を続けていますが、生活はできているし、さしあたってピンチやトラブルはありません。つまり現状を変える必要性を認識していなかったのです。それなのに高橋さんは変えろと言う。それが佐藤さんには、あたかも自分に文句をつけているように聞こえたのです。
高橋さんが最初にやるべきことは、現状のままだと佐藤精肉店は将来まずいことになる、と認識してもらうことでした。その認識を共有した上で話を切り出せば、ずっと前向きに聞いてもらえたはずなのです。
さらにその前には、「こいつの言うことなら聞いてやってもいいかな」と思ってもらえるような人間関係の構築が必要になります。
そのためには対話をする必要があります。自分にコミュニケーション能力が不足していると思うのなら、得意な人と組みましょう。一人ですべてのスキルを備えている必要はありません。話し合いが得意な人から紹介を受けるという形でも全然OKです。
まとめ
田舎で活躍するために必要なスキルは「生産する以外全部」+「コミュニケーション能力」でした。
都会で得られるスキルは、田舎では得られないものです。たとえ都会ではそれほど高いレベルでなくても、田舎ではとても貴重な戦力なのです。
ずぶの素人が一から農業をやるぐらいなら、これまで得たスキルを活かして、農業をやっている人をサポートしてもっと稼げるようにしてあげる方が地域の未来につながります。
田舎は魅力的な資源の宝庫です。それなのに衰退しているのは、仕事がないのではなく、「稼ぎ手」が不足しているからです。稼ぐ人がいないから、子供は後を継がないし、若者は都会に出ていくのです。稼ぐ人を作ることができれば、田舎に人は集まってきます。
あなたの手で、田舎の人たちを「稼ぎ手」にランクアップさせてみませんか。
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