あるキャンプ場の管理人から聞いた話です。
いつものようにお客さんを泊めていたら、あるお客さんから夜にこう言われました。
「テントの中にハエが入ってきたから追い出してくれ」
それを聞いて管理人の彼はこう返事しました。
「山の中なのでハエが入ることはあります。追い出すのはすいませんがご自身でお願いします」
するとそのお客さん、なんと怒り出しました!
「サービス悪い! カネ払ってるんだからハエぐらい取れよ!」
色々と思うところがありながらも、管理人の彼は結局ハエを取りました。
さて、このお客さんは何を期待してキャンプに来たのでしょうか。豊かな自然? 川のせせらぎ? マイナスイオン?
残念ながらそれは自然の優しい側面だけを見ています。
自然は優しいばかりじゃない
自然と聞いて何を思い浮かべますか?
青い空、青い海、透き通った川、雄大な山々…一般的なイメージはこういう感じですね。
では、こういうのはどうでしょう。台風、津波、土砂崩れ、川の氾濫、豪雪…
災害ばかり並べていますが、これらもぜんぶ自然です。台風や雪は空からやってきます。海は津波を引き起こします。雄大な山々は土砂崩れを引き起こします。川は氾濫を引き起こします。
災害だけじゃありません。たとえば先ほど挙げた、ハエがテントに入ってきたという話。
虫だって同じです。きれいなチョウチョやカブトムシだけの山があればいいですが現実にはそんなものはありません。蚊、ハエ、アブ、ハチ、ゲジゲジ、ムカデ、ゴキブリ、クモ…挙げだすときりがないくらいたくさんいます。
チョウチョを見たいのならもれなくその他の不快害虫もついてきます。チョウチョだけ見たいなんてのは無理な注文です。
自然に向き合うということは、自然のいい面も悪い面もすべて目の当たりにしまうということです。
自然相手の仕事は過酷
先ほどから散々イヤな話ばかりしていますが、レジャーで楽しむ分には、もしかしたら自然の嫌な面を見ずに済むかもしれません。「川でBBQして楽しかったね~」とか「山登りして絶景見られたね~」とか、楽しいばかりで済めばそれにこしたことはありません。
しかしお仕事にするとなるとそうはいきません。
自然のマイナス面をまざまざと思い知る職業があります。それは農業です。
農業をやったことがない人には、おひさまの下でクワを振るって、いい汗かいて、自然と生きてるってすばらしい! もぎたての野菜サイコー! っていうイメージがあるのではないでしょうか。
農業はヤバイ。自然が本気出したら絶対勝てません。
川が増水して畑に水がなだれ込んだら、それだけで野菜は全滅です。
田舎では、おじいちゃんが自分の田んぼが心配でいてもたってもいられなくなって、台風で横殴りの雨風がびゅうびゅう吹き荒れるなか外に出ていって、増水した川に流されて死んじゃった、っていうことがいまだにあります。
なんでわざわざ危ないときに危ないとこに行くの? バカなの? って思うかもしれません。でもおじいちゃんにとっては、愛情かけて育てた大切な田んぼなんです。
しかもおじいちゃんの時代は、作物の中でもコメは別格の存在でしたから、うちの宝物が流されちゃうかもしれないぐらいの気持ちなのです。
大切な存在を思い浮かべてください。
カノジョでも子供でもペットでもいいです。とにかく大切な存在。それが台風の日に外で、しかも増水した川のそばにいるって知ったらどうします? 家の中でじっとしているなんてできませんよね?
飛び出して助けにいきますよね? そんな感覚です。
さて、話がそれたので自然ヤバイの話題に戻します。
川の増水はピンチなんですが、逆に晴ればかりでも困ります。日照りが続いたら野菜が枯れます。コメなんて大量の水がいるのでよけい悲劇です。
脅威は天候だけじゃありません。
畑の中には虫がわんさかいて、野菜に穴を開けます。消費者は傷のない商品を求めるので、穴が空くと食べるのには支障ありませんが売り物にはなりません。子供に人気のはらぺこあおむしは農家からしたらただの害虫です。
野菜も病気にかかります。病気になったら変色したり小さくすぼんでしまったりして売り物になりません。
そろそろ収穫できるなあという頃になると、山からシカやイノシシやサルが下りてきて野菜を食い散らかします。もちろん1円も払っていきません。いわゆる獣害です。奈良公園で皆に愛されるシカは農家からしたらただの害獣です。
農家はお金と交換するものを作っているので、野菜は半分お金みたいなものです。ということは、お金が増水した川で流されたり、お金が台風で吹き飛ばされたり、お金が虫に食われたり、お金がシカに食われたりしてるわけです。しかも毎年何回も。
そして野菜はダメになったらそれっきりです。データならバックアップがとれますが、野菜はバックアップとれないですからね。
農業をやめちゃう原因はこんなところにもあります。特にお年寄り。作っても作ってもモノにならずに心が折れちゃうんですね。
そして、何より不思議なのは、そんな理不尽な自然の仕打ちを乗り越えてやっとできた野菜がスーパーでたった100円やそこらで売られているという事実です。
一般消費者は今年はキャベツが高いだの白菜が一玉400円もするなどと平気で言います。
なぜ高いのか。品薄だからです。
ではなぜ品薄になるのか。自然の仕打ちで畑が打撃を受けて、まともに出荷できずに苦しんでいる農家がたくさんいるからです。野菜の高騰は、どこかの農家が被害で苦しんでいることの裏返しなのです。
農業に限らず、自然を相手にする職業は、ときに自分たちではどうにもならない巨大な敵を相手にそれでもなんとか日々やりくりしているのです。
こんな大変な思いを何年もして、それでも農業最高!って思えたら、その気持ちは本物です。
まとめ
自然は優しい面も厳しい面もあります。
いっときのレジャーですら厳しい面を見せることがあるのに、まして住むとなればたっぷりと味わうことになります。
どうしても自然のいいところだけを味わいたいなら高いお金を払ってグランピングに行こう!
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